小説・新古事記
「ああ、あのシーンですね」 聖はポンと手を叩くと陽の背後に回り、背伸びして陽のリュックを開けた。 「おい、聖〜。なにやってんだよ〜〜」 「あったあった」 聖は陽のリュックから「古事記まんが」を取り出した。そして、ページをめくって言った。 「あっ…
「はい、お姉さん。 ありがとうございます!!」 聖はすっきりとした顔で言った。 「ところでぇ〜〜」 「はい?」 「今更なんですけど、ここの神社にいる神様ってどんな神様なんですか?」 聖は巫女さんに聞いた。 「ズコー ひーちゃん、ご祭神を知らずにお…
「そういう場合はね、紙に「空」とか「雲」って書いて神棚の上…天井に貼ればいいの」 カナコが言った。 「カナコっ!!? きさま、オレの手柄を横取りしやがったな!!」 「お兄ちゃんがいつまでと独り言言ってるからじゃ〜〜、ベロベロベー」 カナコはあか…
「一杯のお水をお供えするだけでも構わないんです。 最初から難しくすると続かないですからね。 簡単に、簡単にです」 聖は言った。 「わかりました。 いきなり結婚しようとせずに、まずはお友達からはじめてみます」 「ふふふ。 そうそう、そんな感じです」…
「そ、それって私でも出来るようになりますか?」 聖が身を乗り出して巫女さんに聞いた。 巫女さんは優しく微笑んだ。 「どうでしょうね? 聖さんはとてもセンスがあるように私には見えますが…」 「え?ホントですか!?」 それを聞いた聖はニンマリした。 …
「私の能力は…そんなに特別なものではありません。 おそらく、古代では多くの人が私と同じように宇宙や…自然界の声を聞いていたはずです」 「うおおおお〜〜 燃え上がれ、オレの小宇宙(コスモ)!!」 ノブナガが雄叫びをあげるとカナコが言った。 「だから…
巫女さんが窓を開けたそこには、お神札やお守りが並んでいた。 「えーと… お名前は聖さんとお呼びしてよろしいかしら?」 聖は答えた。 「はい、聖です。 日を知る巫女、聖です、ふふふふふ。 名前で読んでもらえると嬉しいです」 聖は得意げに指で鼻の下を…
「先ほども言いましたけど… あなた達のご先祖様、喜んでいらっしゃいますよ。 特に現代は神道にも仏道にも触れずに一生を終える人はとても多いのです。 その動機が何であろうと、お休みの日にわざわざ神社に足を運ぶ。それを喜ばない神様やご先祖様がいるは…
「まあこんな話、人にすることでもないと思いますけど… 僕が子供の頃…親戚のおじさんが結婚して… ところが、おじさんの相手が新興宗教にハマっていたんですよ。 結婚後、おじさん夫婦は祖父母の家で暮らしていたんです。二世帯ってやつです。 結婚相手は親族…
聖は続けた。 「私、前回お姉さんのお話を聞いて神棚にすごく興味を持つようになったんです。 バタバタしていてまだ準備出来ていなかったんですけど…」 「えええええーーーっっ!!」 カナコが素っ頓狂な声を上げた。 「ひーちゃん家、神棚ないの?」 「え?…
ガツッ!! 「いってえええ!!」 カナコがノブナガの脛を蹴った。 「何するんだ!!カナコ!!」 「どさくさに紛れてお姉さんの手を握ってんじゃないわよっ!! 全く恥ずかしい!!」 ノブナガは脛をさすりながら言った。 「何するんじゃーーー!! 今日か…
巫女さんは笑った。 「大丈夫ですよ。 お兄さん、左手から清らかなエネルギーが発せられていますね。 そのエネルギーがお兄さんを過去の怨念から護ってくれています」 それを聞いたカナコはノブナガの袖をまくった。ノブナガの左手首には広末さんに買っても…
巫女さんは陽をジッと見つめてから言った。 「あなたはすごく… 我慢しているというか、自分を抑えつけていませんか?」 少し間を置いてから陽は言った。 「そうなんでしょうか? 正直、よくわかりません」 巫女さんは優しく言った。 「そうですね、みなさん…
聖は目をキラキラさせて巫女さんに聞いた。 「チャ、チャネラーって!! あのー、お姉さん!!? もしかして、守護霊様とか天使とか…龍神様の声が聞こえたり見えたりするんですか!?」 巫女さんは微笑みながら言った。 「私の場合は… 宇宙人セルシオスと交…
「私、アルバイトというか…この神社が好きで時々お手伝いさせていただいているんですよ。 時々と言っても月に1回とか2回とか…そのくらいですけど」 巫女さんがそういうと、カナコは納得した様子で言った。 「どうりで会ったことがないはずだ。 でも、ヨウく…
4人が声のする方を見ると、そこには小柄な巫女さんが立っていた。髪にブルーのメッシュを入れている。 ノブナガは巫女さんに流し目を使いながら言った。 「うちのちんちくりんがお騒がせして申し訳ありません。本当にいつまでも小学生レベルでして」 「ちん…
「さ、ザビエルの話はそのくらいにしてお参りしましょ」 「くっ、カナコ!! 人がせっかく良い話をして余韻に浸っているのに!!風情のないヤツめっ!!」 4人は朱色の第一鳥居をくぐった。 第二の鳥居は石で出来た双龍鳥居だ。 「龍さん、また来ましたよ」 …
「ザビエルは知っての通りキリスト教の布教を目的として日本に来たわけだが…」 陽と聖は頷いた。 「おい、もやし!! ザビエルの本名知ってるか?」 「え? フランシスコ・ザビエルですよね? 歴史の授業で習いました」 聖が一歩前に出た。 「まさか!? フ…
「と、その前に… もやしよ、古事記でスサノオが泣き喚いていたシーンはわかるか?」 ノブナガは陽に聞いた。 「えっと確か… 父であるイザナギに海原を治めるように言われたけど、母に会うために黄泉の国に行きたい、と駄々をこねたんでしたよね?」 カナコが…
「おい、もやし!! お前、マザコンをバカにしていないか?」 陽は少し考えて答えた。 「バカにするというか… うーん、母親離れできない甘えん坊なイメージですね。 だがらノブナガさんっぽくないかと…」 「ふむ、それは違うな。 マザコンをオレが日本語に訳…
「グッモーニンッ!!」 カナコより少し遅れてきたノブナガは黄金に輝くスパンコールのジャケットを羽織っていた。 カナコは言った。 「こんな人と知り合いだと思われたくないじゃない? だから、少し後から来るように言ったのよ」 ノブナガのかけたミラーサ…
09時58分 「おーい!!」 手を振りながら小柄な女性が近づいてきた。 「あっ、かなぶんだっ!!」 聖はそういうとその場でピョンピョンと跳ね、手をブンブンと大きく降った。 「おー、ひーちゃーん」 「おー、かなぶーん」 二人は再会を喜び抱き合った。 (…
「よし!」 そういうと陽は「古事記まんが」を閉じた。 「聖、オレもとりあえずだけど読み終えたよ」 聖はニコリと笑うと言った。 「もう次の駅で降りるよ」 ------------------------------------ 09時35分 陽と聖は駅を降り商店街を歩いていた。 「あ、見…
陽は前回の満員電車を覚悟していたが、車内は予想外に空いていた。 「あ、今日、日曜か」 陽は呟いた。シフト制の仕事をしていると曜日の感覚がなくなってくる。 電車は大きな川を越え都内に入った。その次の駅で目の前の席が空いたため、陽と聖は並んで座っ…
陽は生姜焼き定食を食べながら言った。 「で、聖? 明日はかなぶんに会いに行くんだよな? 場所は?」 「うん、私、前に見たラーメンをどうしても食べたくて」 「ああ、あの… 極道ラーメンだっけ?」 「ちがうよっ ご・く・うラーメンっ!! 「極める空」と…
「タカシ×タカシ? ああ、プロレスのマスクを被ったコンビだろ? 聖、好きだったもんなぁ」 聖は嬉しそうに言った。 「そうそう! フジカワとモリのコンビが最高だったよねー 「ハヤシさん!」 「ハヤシじゃないよ、モリだよっ」 って掛け合いがねー。 あの…
21時10分 ガチャリ 「ただいまぁ〜」 仕事を終えた陽が帰宅し玄関のドアを開けると聖の悲鳴が聞こえた。 「あぅ〜〜〜っ!!」 陽は慌てて靴を脱ぎ部屋に入った。 「どうした、聖? 何かあったのか?」 「ヨ、ヨウ…おかえり…」 そこにはリビングのソファーに…
10時55分 「おはようございまーす」 出勤した陽は、フロントバックのロッカーに置かれた聖のバッグを見つけた。そして、自分のバッグから「古事記まんが」を取り出し、聖のバッグに忍ばせた。 その後、聖と一緒に勤務にあたっていたが、これまでも勤務中に二…
07時50分 「おはようございます」 聖が出勤してきた。聖は航を見つけると近づいてきた。 「氷川さん、おはようございます。 浅間は昨夜も私が寝た後に「古事記まんが」を読んでいたみたいです」 「おはようございます。 ええ、昨夜メッセージもくれたみたい…
「掛川さん、具体的に何がやりたいとあるんですか? 確か、電車が好きで旅行関係の専門学校を卒業されたんですよね?」 航は掛川さんに質問してみた。 「はい。 何をやりたいかはまだわからないんですけど…もともとホテル業も妥協して選んだ部分が、あります…