21時10分
ガチャリ
「ただいまぁ〜」
仕事を終えた陽が帰宅し玄関のドアを開けると聖の悲鳴が聞こえた。
「あぅ〜〜〜っ!!」
陽は慌てて靴を脱ぎ部屋に入った。
「どうした、聖?
何かあったのか?」
「ヨ、ヨウ…おかえり…」
そこにはリビングのソファーに座っている聖がいた。
「どうしたの?変な声出して?」
「じ、実は…
読書に夢中になって夜ご飯を作ってないでござる…」
「読書って、「古事記まんが」のこと?」
「そうでござる。
ごめんね。今から急いで何か作るから…」
陽は時計を見た。
「いや、今日は外で食べようよ。
時間も時間だし…
そんな無理しなくていいよ」
聖の顔がパッと明るくなった。
「じゃ、キング飯店がいい」
「うん、あそこなら22時までやってるし、まだ間に合うっしょ」
陽と聖はそのまめ近所にあるキング飯店に向かった。
------------------------------------
21時15分
キング飯店に入ると先客は一人だけだった。常連のタクシー運転手だろう。空いている4つのテーブルの中から、二人はテレビに近い座席を選んだ。
「空いててよかったね」
「もうこの時間だしね」
厨房から大将が声をかけてきた。
「おー、聖ちゃん、元気?」
「大将〜〜〜、こんばんはー」
聖は愛想よく大将に手を振った。
「オレ、生姜焼き。聖は?」
「もちろんチャーハン」
陽は手を挙げ初老の女性に声をかけた。
「すみませーん、注文お願いします」
少し離れた場所で腕を組みながらテレビを見ていた女性は不機嫌そうにテーブルに近づいてきた。陽は最近知ったのだが、彼女は大将の奥さんではないらしい。
陽が注文を伝えると、女性は大声で厨房にいる大将に復唱した。
(この中継いる?)
陽は来るたびにそう思うのだが、もちろん声には出さなかった。
店内のテレビでは、お笑い番組が流れていた。
聖はテレビを見ながら呟いた。
「最近、見ないね」
「え?なにを?」
「タカシ×タカシよ」