「掛川さん、具体的に何がやりたいとあるんですか?
確か、電車が好きで旅行関係の専門学校を卒業されたんですよね?」
航は掛川さんに質問してみた。
「はい。
何をやりたいかはまだわからないんですけど…もともとホテル業も妥協して選んだ部分が、ありますし。
これから「ワクワクすること」を見つけて行って、いずれそういうことを仕事に出来たらって思います」
「ワクワクすることですか…」
ガチャ
そこへ五十嵐さんが戻ってきた。
「え?五十嵐さん?
まだ1時間しか経ってないですよ?」
「いいんだ、いいんだ。
仕事が気になっちゃって、休んでられないよ」
五十嵐さんはそういうと、またパソコンに向かい出した。
掛川さんは遣る瀬無い表情で、しばらく五十嵐さんの背中を見つめていた。フロントバックは重くるしい空気に包まれた。
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6時30分
「んじゃ、私、行ってくるからねー」
聖の声で陽は目を覚ました。寝ぼけたまま陽は答えた。
「んー、いってらー」
「ヨウ、今日は11時からでしょ?
あとでね。いってきまーす」
陽は身体を起こすとスマホを確認した。航からの返信はなかった。
陽は少しがっかりした。
そのままリビングに行くと、冷蔵庫を開け、発泡酒に手をのばしかけたが、手に取ったのは紙パックのアイスコーヒーだった。
アイスコーヒーをコップに注ぎ、ソファに座る。
「あれ?聖、持って行かなかったんだ」
テーブルには「古事記まんが」が置かれていた。
陽はぶどう入りの食パンを2枚焼き、昨夜の味噌汁を温め直した。焼き終えた食パンにマーガリンを塗る。
テレビを見ながら一人で寂しい朝ごはんを済ます。食器を洗い終えると聖にメッセージを送った。
「聖、「古事記まんが」忘れてるよ。
少しだけど電車で読めるのに。
あんなに読みたがってたじゃん」
するとすぐに聖から返事が来た。
「聖はあとでいいよ。
ヨウは氷川さんとのやりとりもあるでしょ?
だから、ヨウが先に読んでね」
陽は呟いた。
「聖って…
やっぱいいヤツだよなぁ〜〜」