「タカシ×タカシ?
ああ、プロレスのマスクを被ったコンビだろ?
聖、好きだったもんなぁ」
聖は嬉しそうに言った。
「そうそう!
フジカワとモリのコンビが最高だったよねー
「ハヤシさん!」
「ハヤシじゃないよ、モリだよっ」
って掛け合いがねー。
あの二人、高校生の時からコンビ組んでたのよ」
「へー、あの二人、高校の同級生なの?
それにしても…
聖の笑いのツボがオレにはわからん」
「でもかなり売れてたじゃん。
アレがわからないヨウのが変わってんだよ」
「そおかなぁ???」
タカシ×タカシはやや遅咲きのお笑いコンビで、陽と聖が付き合いだした3年前にブレイクした。その頃は連日テレビに出ていたが、今では全くその姿を見ることはなかった。
「お笑いの世界も大変なんだろうな…
いわゆる一発屋ってやつだよな。
あの人たち、今40歳くらいだろ?何してるんだろうなぁ???」
そこへ女性店員がやってきた。
「はい、生姜焼き定食とチャーハン」
女性店員は無表情のままお盆をテーブルの上に置いた。
「うわー、うまそー
いただきまーす」
陽は割り箸を割ると生姜焼き定食を食べ始めた。聖は小皿にチャーハンをよそうと陽に差し出した。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがと」
陽は小皿のチャーハンを受け取った。
「それじゃ、わたしもいただきまーす」
聖のチャーハンにはネギが入っていなかった。聖はチャーハンを頬張りながら厨房をチラリと見た。
目のあった大将がニコリと笑う。聖は大将にウインクして返した。
ネギが苦手な聖はいつもネギ抜きチャーハンを頼んでいた。大将はそれを覚えていてくれているのだった。
「おいしーっ!
キングのチャーハン、最高っ!!」
「生姜焼きもうまいぞ。
ほれ」
陽は豚肉を一切れつまみ、聖のチャーハンに乗せた。
「ありがとう」
いつもより遅めの夕食が始まった。