2日目…
午後10:40
「おはようございます」
航はホテルのフロントバックにいた。その時間は、4人が勤務していた。この時間になってもチェックインが多く、皆パタパタと忙しなく動いていた。業務のことが全くわからない航は、それをただ眺めていた。焦ることもない。わからなくて当然なのだから。
午後10:50
一人の女性が出勤してきた。彼女は韓国籍で名前を朴さんといった。年齢は30歳くらい。下の名前の発音は難しく、航はそれを聞き取ることが出来なかった。
日勤の4人のうち引き続き勤務するのは石松さんという男性。かなり年配のように見えた。
航は名前をインプットしようと彼の左胸に目を運ぶと、石松さんはネームプレートを逆さまに付けていた。指摘すべきか迷ったが、新人の自分にはそれが憚られた。
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「では先に仮眠にはいります」
業務が落ち着くと石松さんは仮眠のためフロントから姿を消し、航は朴さんと2人になった。
「私、23:00〜の勤務が多いので、氷川さんと勤務が被ること多くなると思います」
「ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
航は丁寧に答えた。
朴さんは見た目は日本人と変わらず、言葉のイントネーションには関西弁が混ざっていた。聞けば長く大阪に住んでおり、自分は韓国語を話せる関西人だと言っていた。
少し気の強そうなところもあったが、コミュニケーション能力は高そうだった。
「石松さん、1949年生まれなんですよ」
先に仮眠に行った石松さんの話になった。彼は他に本業を持っており、今は月に4回程度しかここでの勤務には入らないらしい。
「へー、じゃあ戦後すぐの生まれですね」
と航は答えた。
「え?戦前ですよ。戦争は1950年ですから」
会話が噛み合わない。
「あれ?そうでしたっけ?」
航はなんとなくごまかした。初見で韓国籍の彼女とこれ以上戦争の話題を続けることもないだろう、と思ったからだ。
朴さんから自分にも出来る単純作業を教えてもらい、黙々とこなす。
「朴さん、終わりました」
航がそう言うと、朴さんは言った。
「じゃあ先に仮眠を取ってください。お疲れ様でした」