00時50分
陽は仮眠に入り、フロントバックには航と朴さんの2人が残っていた。
航は手を止めずに朴さんに語りかけた。
「朴さん、韓国はどうでしたか?」
朴さんは笑顔で言った
「楽しかったですよ、家族にも会えたし」
「寂しくないですか?韓国と日本に離れていて?ご両親のこと、心配にもなるでしょう?」
「たまに会うからいいんですよ。それに妹が近くに住んでいるので安心です」
朴さんは続けた。
「親は私に結婚して欲しいみたいですけど。昔は、私の方が結婚したいと、思っていたんですけどねー。氷川さん、どっかにいい人いませんかね?」
航は紹介するあてなどなかったけれど話を合わせた
「どんな人がいいんですか?」
「私、ファザコンなんですよー
一番好きなのは…」
と言って朴さんがあげた名前は、有名な日本のアニメに登場する…お調子者の探偵だった。そのアニメは航の娘も好きで、時々一緒に娘と見ることがあった。
「えー、あんなのがいいんですか?」
「だって、一緒にいて楽しそうじゃないですか」
「名探偵でなく迷探偵でしょ?
さすがにちょっと年上すぎませんか?」
「確か38歳ですよ。私の9個上か…。ギリセーフですかね?」
「え?あの人、38歳なんですか?僕より7個も下だったんだ?完全に年上だと思ってた」
すると朴さんはA4の用紙を一枚取り出し、ボールペンで、あっという間にチョビヒゲの迷探偵を書き上げた。
「へーー、うまいですね、そっくりだ」
「私、絵を描くのが大好きで。日本のアニメも大好きで。だから日本に来たんですよ」
「へー、ビザとかどうなんです?僕、全然わからないんですけど?」
「学生の時、ワーホリで日本に来たことがあって。今は5年のビザを持ってます。5年のビザってなかなか取れないんですよ。今、4年目ですね。最初は九州の旅館で住み込みで働きました。その後が大阪、そして現在に至る…です。どんどん東に来てます。大阪が一番好きですよ、住みやすいし、お金かからないし。
氷川さん、新今宮って知ってますか?」
航は朴さんのタフな人生譚に引き込まれた。