6時00分
航はゴミをまとめ、通用口から外へ出た。すでに雨は上がっていた。雨に濡れた集積ボックスの蓋を開け、ゴミを放り込む。
航はホテルの正面玄関に移動した。傘立てに濡れた傘が何本も刺されている。傘を集めると、再び通用口から外に出て、傘を広げ並べていった。
フロントバックに戻ると、石松さんが起きてきていた。
「おはようございます」
石松さんに挨拶をしながらCDプレイヤーの再生ボタンを押す。少し間を置いて、ロビーにBGMが流れ出した。
雨上がりの朝にぴったりと思えるインストゥルメンタルだったが、航はBGMを止めた。そして、例のビートルズのカバー曲が収録されたCDに交換した。
ロビーに「Blackbird」が流れ出した。航はフロントに出て音の大きさを確認した。
「おっ、いいですねー。ビートルズ」
石松さんがフロントに出てきた。
「音をもう少し大きくしましょう」
石松さんはフロントバックに戻り、音量を上げた。
「うん、このくらいじゃなきゃいけません」
ロビーにはかなり大きめなBlackbirdが流れた。石松さんは鼻歌交じりでご機嫌だった。
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7時45分
航は石松さんと2人でフロントに立っていた。時折、チェックアウトの対応をする程度でロビーはのんびりとした空気が流れていた。
「おはようございます」
「おはようございます」
2人の女性が出勤してきた。1人は掛川君が恋心を抱く河村ちゃん。もう一人は聖だった。聖は航を見つけると
「あっ」
と声を出した。そして続けた。
「氷川さん、ちょっといいですか」
聖は航に向かって手招きをした。
航は石松さんの顔を見た。
「空いてるから大丈夫ですよ」
「じゃ、ちょっと外しますね」
航は聖に続いてフロントバックに入った。
「ひーちゃん、おっはよー
今日もかわいいねー」
そう言ったのは朴さんだった。朴さんは椅子に座ったまま大きく伸びをした。
「パクちゃん、おはよー
…って、何1人だけサボってんのよ!」
朴さんは頭をかいて言った。
「いやー、今日は空いてるしフロントに3人も立ってたら暑苦しいでしょ。私、170以上あるから、実質男3人みたいになるよ。
それに、今日は五十嵐さん休みだから大丈夫よ」
「はい、じゃー、氷川さんと交代です。
パク選手、インッ!!」
「なになに?氷川さんと秘密の話?
気になるなー」
「ほらほら、石松さんを1人にしないで」
「はいはい、わかりましたよー。
あと10分ちょい、がんばるかーっ」
朴さんはそういうと元気よくフロントに出て行った。