航は名刺を差し出した。男性は品のいい黒皮の名刺入れを胸のポケットから取り出した。
『鳥海比呂志』
「鳥海さんとおっしゃるんですね。珍しいお名前ですね」
「そうかもしれません」
そこへ…
「氷川さーん、江本さーん!!」
吉川さんがやってきた。吉川さんはタオルでで顔の汗を拭った。そして、時計を見た。
「18時59分。ギリギリ間に合いました」
そういうと大きな声で笑った。そして続けた。
「しゃぶしゃぶとは豪勢ですねー」
江本さんが言った。
「すみません。もっとカジュアルなお店にしたかったのですが…どこもいっぱいで」
「いえいえ、いいんです。お肉大好きですし。
予約してくださってありがとうございます」
「とりあえず中に入りましょうか」
鳥海さんの一声で皆はお店の中に入った。
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「さ、私もお風呂入っちゃおっと」
聖の姿が消えると、陽は冷蔵庫から発泡酒を取り出してきた。
プシュ!!
缶を開け、一口飲む。
「あー、うまい」
陽はそのままテレビゲームに手を伸ばしかけたが思いとどまった。そしてソファに座ると『寝不足になる古事記』の続きを読み始めた。
「うーん、、、
全然面白くない…
氷川さんがコレを薦める意味がわかんないなー」
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リビングの向こう側からドライヤーの音が聞こえてきた。
「ふぅー、気持ちよかった。
ひーちゃん、生き返りました。
ん?ヨウ、それは空き缶?」
リビングに戻ってきた聖はテーブルの上にある発泡酒を指差した。
「ん?ああ、もう空だよ」
「まったくもう!」
聖は空き缶を手に取ると水ですすいで捨てた。
「空き缶はすぐ捨てるっ!」
「はーい」
「ん?ヨウ、それは?」
「古事記は?」
「うーん…軽く挫折中
んでさ、こっちの本、めっちゃおもろい!」
「へー、そうなんだー。
ん?」
聖はスマホを手に取った。
「おお、我が一生涯の友より連絡が来ておる!」
「奈帆ちゃん?」
「うん!」
聖は微笑みながらスマホの画面を見つめた。