航は西口さんが何気なく言った言葉を今でもよく覚えている。
「40歳を過ぎたあたりから人生が崩れるんだよ」
当時は自分にはなんの関係もない言葉のように思えたが、今の自分はどうだろうか?
社会からドロップアウトした自分。当時、こんな人生を予想していただろうか?
いや、予想も何も自分が45歳になるなんて想像もしていなかったかもしれない。
当時の西口さんと同年代になり、結婚し娘を授かり…航は今になって彼の寂しさがわかるような気がした。
(西口さんにもっと優しくしておけば良かったかな。
掛川さんも将来、こんな風に思うんだろうかか?)
米澤さんの酒癖を批判する掛川さんを見て、航はそんな風に思った。
「氷川さん、知ってますか?」
掛川さんのその一言で航は現実に戻った。
「え?何をですか?」
「今、五十嵐さんは宿泊課の実質の責任者なわけですけど…」
「まぁそうでしょうね」
「宿泊課の責任者…チーフマネージャーって言うんですけどね。
そのポストを募集してるのを求人サイトで見ちゃったんです」
「えっ?」
航は思わず声を出した。
「つまり、五十嵐さんはどんだけ頑張っても、会社は上に上げる気はないってことですよね。
ひどいですよ、手当もつけずに仕事だけどんどん押し付けて…
五十嵐さん、20年以上前に入社してるし、米澤さんほどではないにしても給料高い方だから…
会社としてはいずれ辞めさせようって考えかもしれませんね。
そんなことも含めて、僕も真剣に将来のことを考えるようになりました」
それを聞いた航は言った。
「掛川さん、かなり考え方が変わってきたみたいですね」
掛川さんは嬉しそうに答えた。
「はい。
もっとこう…
自分の可能性を信じてみたくなりました」