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【新古事記139】20年

五十嵐さんが姿を消すと、フロントバックには航と掛川さんの2人になった。


「五十嵐さん、お昼の11時から勤務してるんですよ?


なのに全然休もうとしないんです」


「五十嵐さんの立場だと、どれだけでもやることはあるでしょうね」


航は自身がサラリーマンだった20代後半の頃、終わりの見えない仕事の量に追いかけられていたのを懐かしく思い出した。


「ところで氷川さん!」


掛川さんは嬉しそうに切り出した。


「当たったんですよ!


『幸せに生きる!大富豪の導きセミナー』の無料招待に!!」


(だろうなぁ)


そう思った航だが顔に出さないように言った。


掛川さん、良かったですね」


「はい、めっちゃラッキーです。


やっぱりここにいたら、将来への希望が持てないので。


成功者の話を生で聞けるのが楽しみです」


「何か良いきっかけになるといいですね」


掛川さんは言った。


「こんなこと言うのもなんですが…


最近、向上心のない先輩たちを見て不思議というか…物足りないというか。


特に米澤さんには正直イライラします。なかなか仕事を覚えてくれないし、同じミス繰り返すし…なのに給料めっちゃいいんですもん。


僕なんてずっと給料据え置きだし、この先上がるとは思えません。はっきり言って不公平ですよ。


それにあの人…いつもお酒臭いんですよ」


航は黙って聞いていたが、彼の言うこともわからないでもないと思った。


掛川さんはまだ21歳。若い彼には歳をとるということが想像出来ないのかもしれないし、不満を持つのも当然かもしれない。


自分が若い頃、年配者にどう接していただろうか?


航は掛川さんの話を聞きながら、自身が20代の頃を思い出そうとしてみた。

あの人は当時…60代だっだたろうか?


髪型を叱ってくれたあの人はまだ元気だろうか?


みなとみらいにシーバス釣りに連れて行ってくれたあの人は元気だろうか?


ビリヤードを教えてくれたあの人は?


怒鳴り合いの喧嘩をしたあの人は?


航の脳裏には次々と懐かしい顔が浮かんでは消えていった。


(皆さん、色々なことを抱えて生きていたんだろうな)


まるで昨日のことのようだけれど、あの頃からもう20年が経過していた。