「浅間さん、まだお時間大丈夫ですか?」
航は陽に確認した。
「は、はい。僕は大丈夫です」
航はうなづくと空中さんに質問した。
「空中さん、ワカン・タンカ村というのはなんですか?」
空中さんが口を開いた。
「簡単に説明すると…
「ア、アニマルメディスン?」
陽は思わず大きな声を出していた。
「うーん…自分を守護してくれる動物のスピリットのことで、ネイティブアメリカンの思想です。で、僕を守護してくれているのが、バッファローのスピリットなんです」
「は、はぁ…」
陽は気の抜けた返事をした。空中さんは続けた。
「スー族の言い伝えでは、バッファローの国からやってきた少女が、ワカン・タンカの教えを村に伝えるんです。
ワカン・タンカとは「大いなる神秘」というような意味です。スー族ではこのワカン・タンカがすべての創造主である、という考え方があるのです」
航は空中さんのイメージとバッファローがぴったりだと思った。
空中さんは続けた。
「僕の名前の漢字『天真(てんしん)』には、「人が天から授かったものを活かす」という意味があるんです。
そんな場を作りたい、という思いで『ワカン・タンカ村』の構想にいたりました。
架空の村ですが、村人は300人くらいいますよ。
今はこのカフェを、色々な人の表現の場として使ってもらっていますが…でもいつか、本当の村を作りたいですね」
それを聞いた陽は暗い顔になった。
「天から授かったもの…僕にはそんなものありそうにないです」
空中さんはすぐに言った。
「そんなことないですよ。天から授かったというとすごい能力をイメージするかもしれませんが…
僕の場合、若い頃から『声がいい』とよく言われていた。でも「それが何か?」という感じで受け入れてきませんでした。
でも50歳を迎えたタイミングで、こじんまりと朗読会を始めたんです。このカフェで毎月一回、もう5年になります」
航は言った。
「5年も続けられているんですか?
すごいですね、続けるって難しいですから。
それが古事記の朗読会につながるわけですね」
空中さんは笑顔で言った。
「そういうことです」