陽は腰掛けると航に話しかけた。
「夜勤明けでお疲れなのに申し訳ありません。さっそくなんですけど…」
航は笑いながら言った。
「浅間さん、とりあえずなにか頼みませんか?」
陽はハッとした。
「あ、そうでした!
それ、美味しそうですね」
航の前には大きめな銅製のマグカップが置かれており、その中になみなみとアイスコーヒーが注がれていた。
陽も航と同じアイスコーヒーを注文した。
やがて、目の前にアイスコーヒーが運ばれてくると、陽は店員に丁寧にお礼を言った。
そして、ミルクとガムシロップを大量に注いだ。
「僕、甘いのが好きなんですよ。子供みたいですけど」
みるみるうちに陽のアイスコーヒーは茅色に変化していった。
「浅間さん、それカフェオレになっちゃうよ」
そう言って航が笑うと、陽も笑った。
「たしかにそうですね」
航が言った。一気にその場が和んだ。
「銅製のマグカップ。これいいですよね。
子供の頃、祖父母の家に遊びに行くと、よく近所のステーキ屋に連れて行ってもらいました。
食後にコーヒーかアイスを選ぶことができて…
子供たちはアイスを選ぶんですけど…大人たちが頼むアイスコーヒーは銅製のマグカップに入っていて、やたらと美味しそうに見えました」
陽も同意した。
「僕、こんなマグカップでアイスコーヒー飲むの…あ、カフェオレかな…はじめてです。
僕には浅間さんのような思い出はないけど、なんだか懐かしい気がしますね」
「全然関係ないんですけど…」
「はい?」
「うさぎおいしかのやま〜…って歌あるじゃないですか?」
「ああ、えっと…タイトルわかりませんけど、聞いたことあります」
「僕、うさぎ追ったことないけど、何となく懐かしく感じるんですよね」
「ああ、僕も…なんとなく懐かしい気持ちになりますよ」
「え?浅間さんもですか?まだ若いのに?」
「はい、なんでなんですかね?
でも、掛川君とか河村ちゃんとか…20代前半の彼らはどうなんですかね?
ある程度歳をとると懐かしく感じるのかもしれませんね?」
その時、航が言った。
「浅間さん、一つ聞いていいですか?」
陽は少し驚いた。話を聞きたいのは自分の方なのに航から質問があるとは思っていなかった。
「は、はい。もちろんです」
「さっき、店員さんがアイスコーヒーを運んできてくれた時、お礼を言ったでしょ?
あれって何でですか?」