航はさらに聞いた。
「そのワカン・タンカ村の村人になるにはどうすればいいんですか?」
「簡単ですよ。ホームページがあるので、そこから登録してもらえれば、後日『村人カード』を発送します。あ、登録は無料ですよ」
「へー、面白いですね。ちょっと調べますね」
そういうと航はスマホですぐにワカン・タンカ村を検索した。
「お、あったあった」
そして、素早くスマホを操作すると言った。
「登録させていだきました。カードの色は青にしました」
空中さんは笑って言った。
「ようこそ、ワカン・タンカ村へ」
陽は航の行動の早さに驚いた。
(この人、個人情報とか気にしないのかな…さっき会ったばかりなのに)
空中さんは言った。
「すっかり足止めしてしまって申し訳ありません」
「いえ、最高に楽しかったです。また来ます。
あ、これもいただいていきますね」
航は陽と同じ『古事記のお話会」のフライヤーを手に取った。
陽は丁寧に頭を下げていった。
「空中さん、ありがとうございました。ごちそうらさまでした」
「ありがとうございました。またいらしてください」
2人はカフェを出ると並んで歩いた。
「いやー、いいカフェでしたね」
航は上機嫌で言った。
「氷川さん」
「はい?」
「氷川さん、知らない人は信じるなって言ってたのに、あのオーナーは信じるんですか?
村人登録までしちゃって…」
航は笑った。
「信じるというか…完全に素敵な人じゃないですか、空中さん。
浅間さんがお茶に誘ってくれたおかげで良いご縁にめぐまれました。ありがとうございます」
「うーん…」
そんな陽の顔を見て航は言った。
「自分の人生ですから、行くときは行くし行かないときは行かない。
自己責任。それだけのことです」
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駅に着くと航は言った。
「じゃ、僕は歩きなんで」
「浅間さん、ありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました。
また勤務が一緒になる日を楽しみにしています」
陽は改札を通り、エスカレーターに乗り、ホームへ向かった。
振り向くと航の姿はまだそこにあった。
航は陽に向かって手を振った。陽は頭を下げた。