「浅間さんが気にしているその少年ですが…
今頃、18〜19歳になってますよね?」
「え?確かにそうですね」
「時間はある意味残酷ですからね。誰にでも平等に流れていきます。
10年経ったら子供も成長しますよ。今頃、髭生やしてるかもしれませんよ?」
航は笑った。
「彼はきっと、サッカー教室の出来事なんて忘れていますよ。だって、軽傷だったんでしょ?
そこに囚われているのは浅間さんだけです、たぶん。当時の先輩もね、忘れてますよ、きっと。
みんな、そんなに暇じゃないですから。浅間さん、ある意味、自意識過剰です」
陽は少し面食らったような気持ちがした。あの子が18歳か19歳になっているのだ。
「それから…
当時の浅間さんの幸せは、好きなことを、サッカーに携わる仕事をすることだったかもしれません。
でも、23歳の浅間さんと33歳の浅間さんの幸せって、同じですか?」
陽は少し考えてから言った。
「僕の幸せですか?僕は今…」
しばらく陽は沈黙した。
「僕は、あの〜〜〜
こういうこと言うのもなんですけど…
聖と結婚したいです」
航はニコリとして言った。
「ですよね。浅間さんにも大切にしたいパートナーが現れたわけだ。
それに『好きなことを仕事にする』って。耳障りは良いですけど、そんなに簡単なことじゃないですから。誰でも出来ることではないと思いますよ。
それと最近はやたらと『自分を一番大切にする』みたいな風潮がありますけど…
僕はやっぱり、そこには本当の幸せはないような気がします。
いいか悪いかは別にして…
人に尽くすことが幸せ…特に日本人ってそういうところ、あるんじゃないかな?」
陽は黙っていた。
「浅間さんのトラウマは、わからなくはないです。
でも、前に進みましょうよ。もうとっくの昔に過ぎたことですよ?
浅間さん、あなたは良い人です。僕も幸せになってもらいたいですもん」
少し沈黙してから陽が口を開いた。
「でも、僕が…
聖を幸せに出来るかな?」