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【新古事記087】10年

「浅間さんが気にしているその少年ですが…


今頃、18〜19歳になってますよね?」


「え?確かにそうですね」


「時間はある意味残酷ですからね。誰にでも平等に流れていきます。


10年経ったら子供も成長しますよ。今頃、髭生やしてるかもしれませんよ?」


航は笑った。


「彼はきっと、サッカー教室の出来事なんて忘れていますよ。だって、軽傷だったんでしょ?


そこに囚われているのは浅間さんだけです、たぶん。当時の先輩もね、忘れてますよ、きっと。


みんな、そんなに暇じゃないですから。浅間さん、ある意味、自意識過剰です」


陽は少し面食らったような気持ちがした。あの子が18歳か19歳になっているのだ。


「それから…


当時の浅間さんの幸せは、好きなことを、サッカーに携わる仕事をすることだったかもしれません。


でも、23歳の浅間さんと33歳の浅間さんの幸せって、同じですか?」


陽は少し考えてから言った。


「僕の幸せですか?僕は今…」


しばらく陽は沈黙した。


「僕は、あの〜〜〜


こういうこと言うのもなんですけど…


聖と結婚したいです」


航はニコリとして言った。


「ですよね。浅間さんにも大切にしたいパートナーが現れたわけだ。


それに『好きなことを仕事にする』って。耳障りは良いですけど、そんなに簡単なことじゃないですから。誰でも出来ることではないと思いますよ。


それと最近はやたらと『自分を一番大切にする』みたいな風潮がありますけど…


僕はやっぱり、そこには本当の幸せはないような気がします。


いいか悪いかは別にして…


人に尽くすことが幸せ…特に日本人ってそういうところ、あるんじゃないかな?」


陽は黙っていた。


「浅間さんのトラウマは、わからなくはないです。


でも、前に進みましょうよ。もうとっくの昔に過ぎたことですよ?


浅間さん、あなたは良い人です。僕も幸せになってもらいたいですもん」


少し沈黙してから陽が口を開いた。


「でも、僕が…


聖を幸せに出来るかな?」