「求人誌を見て…なんだか懐かしい気持ちになって…少し前向きになれた気がしました。
五十嵐さんに直接連絡をしました。五十嵐さんはすぐに電話に出てくれて。
会社を辞めた旨を伝えると、すぐにメシでも食べに行こうと言ってくれて。
経緯を伝えたら『次が決まるまでウチで働けば?こっちも助かるし』と言ってくれて。そして、アルバイトを再開したんです。
最初のうちは都落ちみたいで嫌でしたけど、みんな変わらず受け入れてくれて。
働いているうちに気持ちも上向きになりました。『働く』って大切ですね。
で、やがて社員になって、そのままズルズルと10年が経過してしまいました。
すみません、一方的に話してしまって」
陽はそこまで言うと話すのをやめた。少し間を置いて航が切り出した。
「つまり…
ズルズルと過ごしてしまった10年に後悔があり、その…事件がなければ人生変わっていたかもしれないということですか?」
陽は間髪入れずに言った。
途中で寝落ちしちゃったので、まだ少ししか読んでいないですけど『アドラーはトラウマを否定』しているらしいですね。
僕はあの事件であんなに好きだったサッカーが嫌いになった時期がありました。今でも日本のサッカーを見ないのはその影響だと思います。昔は好きでしたから、日本のサッカーも。
サッカーの仕事に携わるなんてやめておけばよかったと思っています」
陽はハッとなり、少し恥ずかしい気持ちで言った。
「いや、なんだかすみません。
僕、こんなことないんですけど。急に堰を切ったように話が止まらなくなってしまって…」
航は首を横に振った。
「たしかに、好きなことが嫌いになってしまう…それは悲しいことかも知れませんね。
それに『話すは放す』ですから。そうやって吐き出すのは大切だと思いますよ。
ついでに言うとアドラーはトラウマの存在は認めているんですよ」
「え?そうなんですか?」
「ま、その話は置いておいて…
これからの話をしましょうか」