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【新古事記071】45歳のフリーター

少しの沈黙ののち、航が口を開いた。


「浅間さんの理想の人生ってどんなですか?」


「え?理想の人生ですか???」


陽はその質問にすぐには答えられなかった。そしてしばらくして口を開いた。


「そうですね。好きな仕事をしていて、お金の心配がなく、子供が2人。あ、もちろん母親は聖ですよ。


家も車も持っていて。時々、家族で海外旅行行ったりして…どうせなら海外サッカー見たいですね」


航は楽しそうに聞いていた。


「いいですね。


で、そんな大人を見たことありますか?」


陽は伏し目がちになった。


「いえ…ないです」


「じゃ、どうしましょうか?」


「うーん、やっぱりそういう生活をしている人の本を読むとか…それしか思いつきませんねー。もしくは諦めるか…そもそもそんな生活を送ることが出来るのは才能のある選ばれた人だけでしょうね」


「まぁざっくりですけど、今、自己啓発本にハマっている掛川さんはそのスタートラインにいます。あ、知らない世界に触れるという意味で。


おそらく…おそらくですが、彼は今後…アホみたいに高いセミナーなんかに参加するようになるでしょうね。とても素直な性格だし」


セミナー???


セミナーって洗脳とかするやつですか???」


航は笑った。


「いやいや、そんなに悪いものばかりではありませんよ。浅間さん、警戒心強いなぁ。


お恥ずかしい話ですが…


僕も散々行きましたよ、高額セミナー」


「こ、高額セミナー???


それって、いくらくらいするんですか?」


陽はドキドキしながら聞いた。


「ピンキリですが…


僕が最初に行ったのは2日間で15万円くらいでしたねー」


「じゅ、じゅ、15万円っ!!!?」


「それだけじゃないですよ。そこから色々行きましたからねー。


こう見えてもけっこうお金かかってるんですよ」

 

航は笑った。


「で、どうなったんですか?


15万円も払ったら何か凄い効果が???」


「どうなったかって…


今の僕を見てください。45歳でフリーターになったんですよ」