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【新古事記117】夜中の新幹線

航は慣れない手つきで新幹線のチケットを購入した。


東京から新幹線に乗って職場に向かうという選択は、普段の航なら考えないことだった。


行き過ぎた倹約家の父に育てられた航には、お金で時間を買うという概念がなかった。むしろ罪悪感すらあった。


航は、改札を通り新幹線に乗り込むと少しホッとした。


「結構、混んでるんだな…」


平日の22時過ぎの車内は、航の予想以上に混んでおり、自由席は全て埋まっていた。航は少しだけ知らない世界に足を踏み込んだような気がした。


航は車両の出入口近くに立つと、スマホを取り出し、鳥海さん、江本さん、そして吉川さんにお礼のメッセージを送った。同時に、陽からメッセージが届いているのに気づいた。


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「ねね?氷川さんから返事きてない?」


陽は本のページを開いたまま、裏返しにしてテーブルに置いた。


「ピピー!!


そこのヨウくん!そんな置き方をすると本がかわいそうですよっ!」


「だって…聖がスマホ確認しろって言ったんじゃん」


「う、それはそうでござるが…」


陽はスマホを確認した。


「返事、来てないよ。


氷川さん、これから夜勤だしギリギリまで寝てるんじゃないかな?」


それを聞いた聖は両手を組み祈るようなフリをした。


「ああ、氷川さん…


早くヨウのメッセージに気づいて…お願い」

 


21時40分


「あー、おもしろかった!!」


陽はアドラーの本を閉じて言った。


「えっ!?もう読み終わったの???


はやっ。やっぱりヨウは本読むの早いね」


スマホから顔を上げ、聖は驚いた。


「これ、読みやすいし、おもしろいし、聖にもオススメ」


「へー、掛川君に借りてるんでしょ?


私も読んでみよっかなー」


陽は時計を見た。


「おっ、もうこんな時間か、寝よ寝よ」


「ヨウ、ところで…」


陽はスマホを確認した。


「氷川さんからの返事は来てないよ」


「あう〜〜」


聖は泣きそうな声をあげた。