「ってゆーか、氷川さん、運送のお仕事もされていたんですね。
経験値、多すぎですよ」
「いや、そんなにいいもんじゃないです。
堪え性がないんでしょうね。経験が積み上がる前にやめちゃうんで。全て中途半端です。
人に誇れるような大したキャリアもないですからね。その場しのぎというか…今、雇ってもらえたところで働くだけです。給料がどうとか…贅沢は言えません。
浅間さん、僕のようにならないように気をつけてください」
航は笑って言った。
「実は僕…最初の就職で失敗してるんですよ」
「え?」
「もう10年も前の出来事ですが…
あれを思い出すと、
今でも胸がドキドキします」
航は真顔になって言った。
「浅間さん、無理しなくていいんですよ」
「いえ、ぜひ聞いていただきたいんです」
陽は1つ深呼吸をした。
「僕、ずっとサッカーが好きで。
と言っても、昔からスポーツはどちらかというと苦手だし、見る専門なんですけど。
で、運良くですね、新卒でサッカーショップに就職できたんですよ。あの時は嬉しかったですね」
そのサッカーショップの名前は航も知っていた。
「僕、大学生のころから今のホテルでアルバイトしていたんです。
みんな就職を喜んでくれて。五十嵐さんなんてその頃から知ってますよ。
で、3月も残りわずかとなり、いよいよ社会人というタイミングで…」
航は一息ついて続けた。
「千葉の支社に配属が決まったんです。
焦りましたよ。だって、2〜3日前に急に言われたんですから。それでも千葉ですからね、まだ助かりました。
両親に手伝ってもらって、住むところ探したり。しばらくはホテル住まいをしてましたね。
それでもなんとか新生活がスタートして。はじめての一人暮らしだったんですけど、最初は大人になった気もしたし、なんだかワクワクしていました。
一応、僕は営業職として入社したんですけど、最初の何ヶ月かは店舗で働くんです。販売とか発注とか…そういう仕事です。
で、それ以外にも月に一回くらいのペースでサッカー教室のイベントなんかがあって。
プロ選手を呼んで子供たちと交流する場を設けたりするんです。
僕、子供好きなんで…サッカー教室もすごく楽しかったんです」