「セミナーって…もちろんすべてが無駄だなんて思いませんが、実態の無いビジネスかもしれませんね。
やってるうちは気持ちいいんですよ。「自分は今、みんなの知らない世界に来てるんだぞ」「お前たちが遊んでる間、俺は成功者の話を聞きに来てるんだぞ」ってね。
でも、そこからうまくいった人を僕はほとんど知りません」
「うーん、でも立派な人たちの話を聞くなんて、普段出来ないし…とてもためになるんじゃないでしょうか?」
陽は力なく言った。
「立派か…
浅間さん、子供の頃、知らない人についていっちゃダメだよって言われませんでしたか?」
陽は少し戸惑った。
「いきなりなんの話ですか?
言われましたよ、もちろん」
「本を書いてる人って…その相手って知らない人ですよね?
なんで知らない人の話、信じるんですか?
なんで立派だってわかるんですか?」
「えっ!?た、たしかに…」
「みんなね、権威に弱いんです。
本を書いてる人は素晴らしい人に違いないって。
もちろん、素晴らしい人もたくさんいると思いますよ。でもね、そこはビジネスですから。
悪意のあるなしは置いておいて…それだけのお金を払って結果が伴わないのはどうかと思います。
セミナーもね、最初のキッカケには良いと思いますよ。でも、どっぷりとハマらないほうが、僕はいいと思う」
さらに航は続けた。
「浅間さん、さっき海外旅行に行きたいとか家が欲しいとか、車が欲しいとか…それ本心ですか?」
「え?
そんなに深く考えていませんでしたが…
うーん、夢って言えばそんなもんかと…」
「僕もね、そんな風に思ってました。
親孝行したい。親を海外旅行に連れて行ってあげたい。
そのためには今の自分ではダメだってね。
当たり前だけど、幸せの基準なんて人それぞれですよ。
一度、浅間さんの幸せが何なのかをみつめてみてもいいかもしれませんね。
あ、でも、僕みたいな知らない人の言うこと信じちゃダメですよ」
それを聞いた陽は苦笑いした。そして、ハッとして言った。
「氷川さん、もうこんな時間っ!!
すみません、休んでください」