「8月のある土曜日の出来事でした。
その日もサッカー教室のイベントがあって。僕もイベントに参加するのが4、5、6、7…」
陽は指折り数えた。
「8月だから5回目だと思います。もうその頃にはだいぶ慣れていて。その日もいつも通り楽しく進行していたんです。
ですが…」
陽は少し沈黙した。
「ですが…なんの前触れもなく突風が吹いて、ゴールポストが倒れました。
それで、近くにいた3年生の男の子に直撃したんです。
子供たちはパニックになっていました。
会社の先輩やコーチ、子供たちのお父さんなんかがすぐに子供を助けに行きました。
僕は何もできず、その場に固まっていました」
少し間を置くように陽は言った。
「氷川さん、知ってます?
サッカーのゴールポストって、
意外と簡単に倒れるんですよ」
そして、陽は絞り出すように話し続けた。
「幸い…その男の子、軽症で済んだんですけど」
航は黙って聞いていた。
「ゴールポストが倒れたの、僕のせいなんですよ」
「え?どういうことですか?」
「ゴールポストに転倒防止用の重りを置き忘れたんです…僕が。きっと、少し慣れてきて気が緩んでいたんだと思うんです」
陽はさらに続けた。
「事故のことは上の方が処理してくれましたし、その子の親御さんもできた方というか…変な揉め事にはならなかったようでした。
でも、僕はそれ以降、一歩間違えていたらって…そんなことばかり想像するようになって。夜もあまり眠れなくなって…」
「仕事に行けば、先輩方が気にするなって言ってくれるんですけど…なんだか来店するお客さん達の目がやたらとかになるようになって。
それでもなんとか仕事には行っていたんですけど…」
「ある朝、駅に向かう途中、その男の子にすれ違ったんです。男の子は友達と3人で楽しそうに歩いていて。
僕のことなんか気づかないというか、覚えてもいないようでしたけど。
僕はその時にスイッチが入っちゃったんです」