店内はアンティーク調の作りで、控えめな照明も相まって落ちついた雰囲気を醸し出していた。航はタイムトリップしたような気持ちになった。
航は革張りの椅子に腰を下ろし、アイスコーヒーを注文した。そして、SNSで陽へメッセージを送った。
「南口の少名彦コーヒーに入りました。慌てずに来てください。氷川」
航は腕時計に目をやった。約束の10時30分までまだ20分近くある。
航は一つ、あくびをした。夜勤明けの体は重い。
けれど航は陽の申し出をとても嬉しく思っていた。彼は33歳。自分もほんのつい最近までそのくらいの年齢だったような気がする。
でもきっと…陽からみた航は、相当年上に見えているんだろう。航は自分を33歳に置き換えて、そんなことを想像した。
「12コも違うんだもんな…
オレが45歳か…信じられないな」
航は自分の12年前のことをぼんやりと思い出していた。
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10時15分
「掛川くん、今日は11時あがりだね、あと少しがんばって。
聖、河村ちゃん、あとよろしくね」
「ヨウ、急がないと氷川さんとの約束に遅れるよー」
「浅間さん、お疲れ様でした」
陽は引き継ぎを終えると、急いで更衣室に向かった。手早く着替えを済ますと、スマホを操作した。
航からメッセージが届いていた。
「ん?南口?しょうめいひこコーヒー?
読み方あってるのかな?
浅間さん、なんでわざわざ南口にしたんだろ?
ま、いっか」
陽はすぐに返事を返した。
「お待たせしてすみません。今から向かいます」
待ち合わせの時間は10時30分だったが、陽は人を待たせるのが嫌いだった。慌てずに…と言われてもどこか慌ててしまう。
陽はICカードで打刻を済ますと、通用口から建物の外に出た。そして、小走りで駅の方向へ向かった。
地下道を抜け、南口へ出るとすぐに目当てのカフェは見つかった。
少名彦コーヒー。
「あれだな。」
陽は少名彦コーヒーを見つけると、すぐに店内に入っていった。
ガラン
「浅間さん、お疲れ様」
店内に入るとすぐ航が声をかけた。
陽は航の座るテーブルに近づくと丁寧に頭を下げた。
「今日はお時間を作っていただきありがとうございます」
航は笑った。
「そんなそんな、さぁ座ってください。
僕も浅間さんとお話するの楽しいですから」
「ありがとうございます」
陽はそう言うと、航の向かいに腰かけた。