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【新古事記078】少名彦コーヒー

09時50分


航は自転車に乗り、駅前のカフェに向かって出発した。

 

駐輪場に自転車を止める。目的のカフェに向けて歩き出すと、目の前をスーツ姿のビジネスマンか行ったり来たりしていた。新幹線が止まるこの駅は、オフィス街だが近くに大きなコンサート会場やスタジアムもあり、イベントのある日は大変賑わう。


駅周辺の様相は、航が学生の頃に比べると随分と変わった。しかし、当時の風景を思い出そうとしても、それを脳内で再現するのは簡単ではなかった。


「昔はショッピングモールも駅直結のあんな綺麗なホテルもなかったよな。そうそう、あのスタジアムもなかったんだよなぁ。


記憶なんてどんどん上書きされちゃうんだな…」


航は1人で呟いた。


環状道路の向こう側に航と陽が勤めるホテルが見える。こうして外から見ると、自分があのホテルのフロントに立ってるなんで、なんだか不思議な気分だった。そして、家を出て15分後にはカフェの前にいた。


航はカフェに入ろうとしたが、思いとどまり地下道を通り線路下をくぐると駅の反対側に出た。環状道路側である北口が「表」ならば、こちらの南口はおおよそ「裏」とでも言ったところだろう。ホテルやショッピングモールが立ち並ぶ北口とは裏腹に、ひっそりとした住宅地が広がっている。


そこに個人経営の小さなカフェがあった。


少名彦コーヒー。


航は前からこのカフェに来たいと思っていたが、なかなかその機会がなかった。


「実にいい名前だ」


航は呟くと、扉を押し店内に入っていった。