03時50分
「おはようございます」
「掛川くん、おはよー。
寝れた?」
掛川くんは大きなあくびをした。
「それが…
氷川さんが貸してくれたアドラーの本が面白すぎて…
寝ないで読んじゃいました。最後まで」
そう言う掛川君の手には浅間さんからもらった本が握られていた。
「え!?もう読み終えちゃったの???」
「まぁそんなに文量もないですし…
とにかく面白かったです」
最近は古本屋でマンガの立ち読み専門の陽だったが、もともとは読書が好きだった。
「掛川くん、その本、オレにも貸してもらえないかな?」
「え?もちろんいいですけど」
そう言うと掛川君は陽に本を渡した。
「ありがとう。読み終えたらすぐに返すから」
陽は掛川君から本を受け取ると、バッグの中にしまった。
「浅間さん、何か申し送り事項ありますか?」
掛川君が聞いてきた。
「ううん。何もないよ。順調そのもの」
「わかりました。じゃ浅間さん、おやすみなさい」
掛川君はそういうとバッグから別の本を取り出した。
その本には『幸せに生きる!大富豪の導き』と書かれていた。
「掛川君…」
「はい?」
「その本、面白い?」
「めっちゃ面白いです。
僕、例えば五十嵐さんのこと、好きだし尊敬していますけど、20年後とか30年後とか…申し訳ないですけど、ああはなりたくないなって思うようになりました。
なんというか…身近なところに目指すべき大人がいないんです。
それに…なんとなくこのままじゃいけない気はします。きっと日本の経済事情も変わってると思いますしね。
僕、仕事でお金を得るからには自己成長とか見返りを求めるのでなく、自分の出来ることを提供すべきだと思っていますが…
もし、この本に書かれているように自分の得意なことや好きなことをマネタイズしていけたら最高だなって思います」
「マネタイズ?」
「あ、得意なことお金に変えるということです」
「それって自分のビジネスを持つということ?」
「それはまだわかりませんけど…
そんな人生を送れたらいいなって思います。
今は自分が好きなことも得意なこともわかりませんけど」
「へー、なんかすごいな…
あ、いけね、オレもう寝ないとな。
あとはよろしくね、おやすみー」