航はマスターに言った。
「今度、僕の講座を聞いてみてください」
「おお、ぜひぜひ。
ここでやってくださいよ」
「え?いいんですか?嬉しいなぁ。
マスターの朗読の古事記というのも面白そうですね?
朗読で古事記っていう発想が…」
「スサノオがオロチ退治の時に急に策士になるじゃないですか?
あれって不自然だと思うんですよ…
そこで頭に挿されたクシナダが…」
マスターと航の話は盛り上がっていた。
陽は話がちんぷんかんぷんで、ただ黙って聞いていた。
ふとカウンターに目をやると色々なイベントのフライヤーが置かれていた。
「へー、このカフェでいろんなイベントやってるんだな…」
陽はそのうちの一枚を手に取った。ポストカードサイズのそれには、
『古事記のお話会』
と書かれていた。
(講座ってなんと身構えちゃうけど、お話会くらいなら初心者の僕でもついていけるかなぁ???)
航とオーナーの話はまだ続いていた。陽はフライヤーをバッグにしまった。
「私、出身が米子でして…」
「へぇー、西の方は古事記熱が高いですよね。米子だと、出雲大社も近いですね?」
「ええ、向こうにいるときはよくお参りしていました。今でも帰省したときはお参りしますよ」
「お店の名前、オオクニヌシコーヒーにはしなかったんですね」
航は笑った。
「母が美保神社を好きでしてね」
「ああ、なるほど。
僕、スクナヒコナ大好きなんですよー」
そう言ったところで、航は陽の方を見た。
「浅間さん、すみません。つい盛り上がってしまって」
「い、いえ、全然大丈夫です」
「オーナー、名刺交換させていただけますか?」
「もちろんです、喜んで」