赤い鳥居をくぐると、すぐに次の鳥居があった。この鳥居は石で作られていて、向かって左の柱に昇り龍、右に降り龍が彫られていた。
「これこれ、これを見たかったの」
聖は嬉しそうにいった。
平日の朝ということもあり、神社の中は閑散としていた。
しかし、この石の鳥居の近くに1組の男女がいた。男性は180㎝近くあるだろうか?ネイティブアメリカンのような長髪を後ろでまとめ、いかつい髭面をしていた。
女性は小柄だが、体中に力がみなぎっているような感じがした。まるでそのエネルギーを持て余しているようだった。
男性は黒色、女性はピンク色のTシャツを着ていた。背中には共に赤色で「S.F.B」と描かれていた。
(うわー、ペアルック…オレには無理だな)
陽は2人を見た瞬間、関わりたくないタイプ…そう思った。
「この昇り龍は願いを天に届けてくれるわけ。んで、降り龍がそれを持って返って来てくれるそうよ。だから鳥居に触れながらお願いごとをすると良いみたい」
それを聞いた大男は「なるほど」といい、両手を昇り龍にあて、ぶつぶつと何かを言い始めた。その表情は真剣そのものだった。
「どうか、どうか、この国を…日本を…ぶつぶつ」
祈り?を終えた大男は再び女性に顔を向けた。女性は解説を続けた。
「龍はね、水の象徴でもあるのよ。蒸気となった水が天に昇り雲になり、やがて雨となって私たちに恵みを与えてくれるの」
大男は感心したように頷きながら小柄な女性の話を聞いていた。
「でね、人も上に上がったらね、今度は次の人を引き上げるために降りて来なきゃいけないんだって。
うん、まるで広末さんのことみたいだよね。
双龍鳥居って、そういう意味があるらしいよ」
「ふーん…カナコ、お前物知りだな」
「まぁ、あるブログで予習してきたんだけどね」
陽も聖もいつのまにかカナコと呼ばれた女性の話に耳を傾けていた。
「あのー」
聖がカップルに声をかけた。
(や、やめろ、聖…こういう輩に関わるな。特にあの大男、絶対関わりたくないタイプ)
陽はそう思ったが、時すでに遅し…聖の好奇心に火が灯っていた。
「すみません、勝手にお話聞いてしまって。
龍のこと、とてもお詳しいんですね?」
カナコと呼ばれる小柄な女性は感じよく答えた。
「いえいえ、そんなことないんですよ。たまたま色々教えてくれる友人がいて。
私たち、この近くに住んでいてよくここに来てたんですけど、この前まで双龍のことなんてぜんぜん知らなかったんです」
「へー、そうなんですねー」
聖は目をキラキラさせながら女性と言葉を交わしていた。