「そうそう」
カナコと呼ばれる女性は思い出したように話を続けた。
「この龍の鳥居…双龍鳥居って言うんですけど、都内に3つしかないんですよ。
あとね…」
彼女はとめどなく話し続けた。
「この先の隋神門の天井に大きな鈴があるんですけど…その下で夢を念じながら手を叩くんです。その柏手の音が響いたら夢が叶うと言われています」
聖は感心して言った。
「へーーー、ありがとうございます。
あ、私たち、この本を読んでここに来たんですよ」
聖はバッグから本を取り出し、それを女性に見せた。
陽は「私たち」という言葉に(オレは違うぞ。オレは聖に付き合ってんじゃん)と思ったが黙っていた。聖はそんな陽の気持ちをよそに話を続けた
「この本の中にこの神社が紹介されていて。
ここに来れば龍に会えるような気がして」
小柄な女性は本を眺めながら言った。
「ふーん、スピリチュアルですか?
私はそういうの興味ないけど…
この神社、龍橋神社って言うんですけど…「ハシ」という音は「繋ぐ」という意味があるそうなんです。
だから…もしかしたら、龍と繋がれるかもしれませんね」
女性は聖に向かって微笑んだ。
「ところで…」
聖は言った。
「お二人のTシャツに描かれているSFBってなんですか?」
これまで黙っていた大男がずいと前に出た。陽は一瞬身構えた。
大男は自信ありげに答えた。
「スサノオ・ファイアー・ボール。
オレたちのバンドさ。
おい、カナコ!!もうこんな時間だぞ!!
せっかく広末さんが京都から来てくれるのに遅刻はまずいぞ」
「あ、ほんとだ!!ダッシュしなきゃ!!
それじゃ、さよなら」
そういうと、二人は陽と聖の前からあっという間に姿を消した。
「なんだか不思議な二人ね、恋人同士なのかしら?」
「バンド内の恋愛はご法度なんじゃない?」
聖のつぶやきに陽は思いつきで返事をした。