陽のつぶやきに言葉を被せてきたのは朴さんだった。
「ようちゃん、日本って良い国だよ…」
朴さんの声はどこか寂しそうだった。そしてスイッチを切り替えるように明るく言った。
「私は生まれ変わるなら関西人がいいな。
スタイルのめっちゃ良い関西人!
それから、ようちゃん、働き蜂って働いてるのメスだからね。オスの働き蜂は働かないから。働かない蜂…」
「え?オスの働き蜂って働かないの?知らなかった。
っていうか、朴ちゃん、すでに関西人じゃん」
「スタイルもいいでしょ?
ズギュュューーーン!!」
そう言いながら、パクさんはなぜかジョジョ立ちを披露した。
ガチャ
その時、ドアが開いた。
「おはようございます」
入ってきたのは聖だった。
陽は時計に目を向けた。
07時45分
(もうこんな時間…)
今日はやけに時間が経つのが早く感じられた。
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08時10分
航は更衣室に入るとスマホをチェックした。するとSNSを通じてメッセージが来ていた。
「先日、ビジネス交流会でお会いした江本です。氷川さんのプレゼン、面白かったです。私は古事記のことはわからないのですが、ご紹介したい人がいます。平日の19時過ぎくらいでお会い出来る日はありませんか?場所は東京駅近くだとありがたいです。ご連絡お待ちしております。江本」
相手は吉川さんの紹介で参加したビジネス交流会で名刺交換した江本さんだった。航は記憶を辿った。
「たしか…まだ20代前半の爽やかな好青年だったな」
航はすぐに手帳を開いた。
「東京なら…夜勤があってもギリギリ間に合うだろう…」
スケジュールを確認すると、すぐ江本さんにメッセージを返した。
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10時15分
「では、失礼しまーす」
引き継ぎを終えると陽は更衣室に向かった
制服からラフな私服に着替える。
「氷川さんと話できて楽しかったな。だいぶ親しくなれた気もするし。
氷川さんって意外としゃべるんだなー。次回、一緒にシフト入るのも楽しみだ」
陽は通用口から外に出ると駅に向かって歩き出した。