ロビーには多くの外国人が姿を見せはじめていた。その人数はみるみると増えていった。
ほとんどはジャージ姿で、背中にはJamaicaとかGermanyと書かれていた。
チェックアウトは選手自身でなく、付き添いの担当者がおこなった。彼らは流暢な日本語を話したので英語が出来ない航でも特に問題はなかった。
チェックアウトが終わると、朴さんは選手たちに英語で明るく声をかけていた。
陽も朴さんほどではないが、彼らに声をかけていた。陽はもともと英語が好きだったし、大学時代には短期留学の経験もあった。
航は2人を横目で見ながら、ただ黙っていた。
しばらくすると、朴さんが陽に話しかけた。
「素敵ね。あのスラッとした身体。
足は長いし、顔は小さいし。さらにスポーツで鍛えてるんだもんねー
短距離の選手かな?
お尻ってあんなに上にあるものだったかしら?」
陽は同調した。
「ホントだよね、同じ人間とは思えない。
僕ら日本人…いや、アジア人とは違うねー」
その言葉に朴さんは噛み付いた
「あら?韓国人だってスタイルいいでしょ?」
陽は助けを求めるように航に話を振った。
「ひ、氷川さん、あの人たちカッコいいですよねー
次に生まれるときは、僕もあんな風に生まれたいなー。ね、氷川さん?」
航は微笑みなら言った。
「確かにカッコいいですけど…
僕は絶対、日本人がいいですね。
生まれ変わりがあるとしたら、
何度でも日本人に生まれたい」
その言葉には力強さがあった。
「何度でも?まじですか?
僕は絶対ヨーロッパとかアメリカがいいなー
日本ってなんかこう…世界に通用しないっていうか。それはサッカーも音楽も、もちろん、体型も。
性格も真面目だし。真面目というか暗いというか…
なんでしょうね、自信がないというか。やたらとペコペコするし。
特に男なんて、社会に出たら一生働き蜂のように働いて死んでいく。夢も希望もない。
幸福度ランキングでしたっけ?あれもめっちゃ低いんですよね。政治も腐ってるし、自殺も多いし。
僕は日本に生まれて…いや、日本人で良かったなんて思ったこと、一度もないなぁ」