航の出産体験談を聞いた上で、陽は改めて質問をした。
「氷川さんは出産には立ち会わないほうが良かったと思ってるんですか?」
航は少し考えてから言った。
「うーん、、、
答えになっていないと思いますけど、やっぱり微妙…ですね。
今でも、妻と出産の時の話をすることはあります。
妻はね、出産の時の記憶、ほとんどないそうなんですよ。だから、娘誕生の記録係として多少は役に立ってるのかな?なんて思わなくもないし。
まぁ僕は立ち会った側の人間ですから…立ち会っていない人の気持ちはわからないから。
立ち会わないと…ほら男は自分が産むわけじゃないから実感がわかないのかもしれない。
でも、やっぱり僕は…見ちゃいけないものを見ちゃったって気持ちはありますね。
でも、そこにはやっぱり、相手の気持ちもあるし。産むのは女性ですから。
不安だから立ち会って欲しいという人もいれば、そんな姿見せたくない、と思う人もいるだろうし…」
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「どっちがいいんだろうか?」
陽はそれを聞いて考え込んでしまった。
「ちょっとちょっと、浅間さん。
別に近いうちに出産を控えてるわけじゃないでしょう?
今からそんなに深刻にならなくても…」
航が笑いながら言った。
「あ、そうでした!
僕、まだ結婚もしてないんだった」
航と陽は2人で笑った。
「そうですよ、これからゆっくり決めていけば良いんです」
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ガチャ!
ドアが開き、フロントバックに誰かが入ってきた。
「おはよー
なんか盛り上がってるじゃないの?」
仮眠を終えた朴さんが戻ってきた。
陽は時計に目をやった
「あ、もうこんな時間。
そろそろ団体のお客さんが降りてきますね」
陽、航、朴さんの3人はフロントに並んだ。
やがて…
2台のエレベーターは休むことなく上下運動を繰り返した。