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【新古事記030】見栄っ張り

「恥ずかしい話ですけど…」


航は話を続けた


「電車で赤ちゃんが泣いてしまい、困ってるお母さん、いるでしょ?


僕ね、あれを見て「母親なんだからなんとかしろよ」って思ってたんですよ。あ、今は思いませんよ。


つまり、子供のこと、何もわかっていなかったし、興味もなかったんです」


陽は静かに聞いていた。


「今はね、娘だけでなく、娘の…例えば一緒に育った保育園のお友達とか…みんなかわいいです。もれなくかわいいです。彼らのためなら死んでもいいって思えます。


ちょっと誤解を招く言い方かもしれませんが、死んでもいいって思える人が増えるのは、幸せなことですよ


世界の観えかたが変わっちゃったんです。娘の…いや、娘と妻のおかげです。」


陽は話を聞きながら頭の隅で考えた。


「自分は誰のためなら死ねるだろう?」


真っ先に出てきたのは聖の顔だった。


航は続けた。


「浅間さん、さっき子供が欲しいって言ったでしょ?


それ、僕からしたらすごいことなんです。すでに自分の中の愛情が目覚めているということですから。僕とはえらい違いですよ」


陽はそう言われて、ちょっと嬉しくなった。そして聞いた。


「さっき、出産に立ち会われたと言ってましたよね?父親になりたくないのになんで立ち会ったんですか?」


航は即答した。


「完全に見栄ですね」


「ミエ???」


「はい。見栄です。


なんとなくね「出産に立ち会うのは妻思いの良い夫」っていう空気ありませんか?僕だけかな、そんな風に思うの?


あと「出産に立ち会えないチキン」って思われたくなかった。だから見栄です」


航は笑いながら言った。