陽の表情が暗くなったのを航は見逃さなかった。
「浅間さん、どうかしましたか?」
「いえ…
あのぅ、掛川くんとか李くんとか…若い彼らと話していると敵わないなって。
しかも僕と違って向上心があって、その…自己啓発の本も読んでいる。
李くんは、パソコンとかめっちゃ得意なんですよ。就職も大手のIT企業を狙ってるし。
なんかこう…若いつもりがいつのまにか歳を取って、社会から取り残されていくような…」
航が言った。
「その気持ち、わかりますよ」
「え?氷川さんもそんな気持ちになるんですか?」
「そりゃそんな気持ちにならないこともないです。世の中のスピードも速くなっていますしね。
でも、そんなこと考えていても仕方ないでしょ」
「まぁそりゃそうなんですけど」
「浅間さん…」
「…はい」
陽は力なく返事した。
「僕はまだ浅間さんとの付き合いは短い。そんな僕が思う浅間さんの最大の魅力ってなんだと思いますか?」
「魅力?僕に魅力なんかありますかね?」
航は優しい表情で話し始めた。
「こういう話をするのもなんですが…
浅間さん、みんな陰であなたのことを…」
「か、陰で、みんなが?僕のことを??」
陽は喉がカラカラに乾いていくのを感じていた。
「はい、陰で浅間さんのことをみんなが絶賛してます」
航はニコリと笑った。
「米澤さんがあの年齢でいきなりフロントの夜勤専属になったこと…
ご本人を含めて会社の意図には誰もが気づいています」
陽は黙って聞いていた。
「浅間さん、あなたは一見大人しそうだけど揺るぎない正義というものを内に秘めている。
米澤さんのシフトについて会社に掛け合ったんでしょう?
みんな、浅間さんのそういう姿をちゃんと見てますよ」