「実際のところ、立ち会ってみていかがでしたか?」
陽は自分の将来と重ねて、航に質問した。
「たぶん浅間さんは奥さん想いだし、感動的なものを求めてるのかもしれないけど…
個人的には微妙ですね…」
「び、微妙???」
航は笑みを浮かべながら言った
「はい、微妙です。
病院に行って産まれそうだねってなると、最初に陣痛室に連れて行かれます。あ、これはあくまで僕の経験ですからね。
で、たくさん部屋があって、もちろん見えないけど周りにも同じような夫婦がいるわけです。
色々な声が聞こえましたよ。苦しそうな声や…それこそ悲鳴とか。
となりの部屋からは「順調だね」「うん、もうすぐだね」なんて微笑ましい会話が聞こえていましたね。
うちの奥さんもやがて陣痛がはじまって…
真夜中の1時くらいだったのかなぁ…
ウトウトする→奥さん痛がる→身体さする→ウトウトする…の無限ループみたいな。意識朦朧としてましたよ。もう終わってくれーって。
そうやっていつのまにか朝を迎えるんです。
で、いよいよとなると分娩室へ移動。
そこで娘が誕生するわけですけど…」
陽は前のめりになっていた。
「なんていうのかな…
これ、男はここにいちゃいけないんじゃないかって思いました。
女性の…女の世界だなって」
「女の世界?」
「そうですね…なんだろうな???
見ちゃいけないもの見ちゃった、みたいな。
男にとっては神聖すぎるのかもしれない。
一緒にいても何もできない。無力でしかない。
それに、
ヤマサチもトヨタマビメの出産を見たからあんな目にあっちゃったし…」
「え?ヤマサチ?トヨタマビメ?
なんの話です???」
「あ、いやいや、こっちの話です
それで、娘を初めてみたときの感想は…
でかっ
って感じで。全然感動的じゃないでしょ?」
「でかっ…ですか???」
陽は顔を少し引きつらせながら航の話を聞いていた。