しばらくすると、陽はスマホの画面を暗くした。サッカーの試合が終わったのだろうか?
そして、航に話しかけた。
「氷川さん、お子さんいらっしゃるんでしたよね?」
「はい。小1の娘がいます」
「かわいいでしょう?」
「はぁ、まぁ、そりゃ…かわいいですよ」
陽は少し間を置いてから言った。
「僕の同棲してる彼女…わかりますか?」
航は少し記憶を辿った。
(確か朴さんと仲よさそうに話している女性たったな。姿勢のスッとした…)
「わかりますよ。一緒に仕事をしたことはありませんけど。朝の引き継ぎで挨拶する程度なので。明るくて素敵な方ですね」
陽の顔がパッと明るくなった。
「そうなんですよ、めっちゃいいヤツなんです」
それを聞いた航は吹き出しそうになったが、なんとかこらえた。
「聖、もうじき30歳になるんです。あ、聖って彼女の名前なんですけどね。
僕たち、結婚もまだなんですけど…
やっぱり赤ちゃん産むなら早い方がいいですかね?
その…30歳って、ちょっと気になるというか…」
航は答えた。
「うちの妻は34歳で出産しましたが、産休中もあちこち出歩いて楽しんでいたし、安産でしたよ。
まあ人にもよるとは思いますが…
今の30歳なんて若い若い。全然気にすることじゃないと思いますよ」
それを聞いて陽は安堵した。結婚をもうしばらく先に伸ばしてもいいかな、という気持ちになった。
気が楽になった陽は続けた。
「僕、子供好きなんですよねー。
だから、はやく子供欲しいんです。
まぁ結婚もしてないクセになんですけど…」
航は少し迷いながら口を開いた。
「実は、僕は…子供が欲しくなかったんです」
「え?」
陽は驚いた様子で航の次の言葉を待った。