「おはようございます」
航が仮眠を終え戻ると、フロントバックは陽の姿があった。
「あ、おはようございます。やること終わってるんで、のんびりしてて大丈夫ですよ。
7時くらいから団体のチェックアウトがあるのでよろしくお願いします」
ホテル近くの競技場で陸上の世界大会があり、選手を含めたくさんの外国人客が宿泊していた。
陽はスマホで海外サッカーを見ていた。
「サッカー、お好きなんですよね」
航は陽に話しかけた。
「はい、特にヨーロッパのサッカーが好きです」
「Jリーグは見ませんか?」
「そうですね…正直、あまり興味がないです。チーム数もわからないなぁ。
やっぱりスピードもテクニックも…全然違いますから」
「今は海外でプレーする日本人も増えましたね」
「そうですねー、でも真のビッグクラブでプレーする選手はいません。まだまだ日本人は敵いませんよ」
Jリーグが発足した頃、航はまだ大学生だった。「海外でプレーする選手」なんていなかったと思う。
もっと遡ると航が子供の頃「ワールドカップに行く」なんて言っていたのはサッカー漫画の主人公くらいだった。日本がワールドカップに出るなんて夢のまた夢だった。
それが今や日本はワールドカップの常連組になり、海外でプレーする選手も増えた。
当時を知っている航からしたら信じられない現実だった。陽はそれでも物足りないようだが…。
こうやって知らず知らずのうちに、若い世代の海外コンプレックスは薄められてきているのかもしれない。
そして、近い将来、真のビッグクラブで活躍する日本人選手が現れるかもしれない。
「悪くない」
航は呟いた。