06時40分
翌朝、掛川さん、李さん、そして航の3人はフロントに立っていた。
同年代の掛川さんと李さんが話しているのを、少し離れたところで航は聞いていた。
掛川さんが李さんに言う。
「就活どう?」
「うーん、派遣ならいけるんだけどね。派遣だと、ブランド力が落ちちゃうから。やっぱり正社員にならないと」
どうやら李さんはIT関係の仕事に就きたいようだった。
「僕はできる事を仕事にすれば良いと思うけどな」
掛川さんは航に言ったのと同じようなことを言っていた。
「うまくいかなかったら、大学院進学も考えてるんだ」
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2人の話題はいつのまにか就活からワイヤレスイヤホンの話になっていた。
「え?それいくらするの?」
「2万ちょっとかな」
「高っ!!」
航は別世界の話を聞いているような気持ちになった。カセットテープの時代の昔話でも振ろうかと思ったが、変に気を使うのはやめた。無理して2人に溶け込もうとすることもないし、場を取り繕う必要もない。
チェックアウトの客がエレベーターから降りてくると、航は積極的に声をかけ自分の方へ誘導した。
「こちらへどうぞ」
チェックアウトの作業はすっかり慣れていた。人間、やればちゃんと成長するのだ。
やがて修学旅行の学生たちがロビーに集まりだした。掛川さんは一生懸命、先生方のサポートをしていた。大きめな制服と童顔が相まって、航には彼がまるで修学旅行生の1人のように見えた。それがなんとも微笑ましかった。
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勤務を終えた航は、体力の限界を感じていた。連続勤務で疲労が溜まりに溜まっていた。帰宅した航は、そのままベッドに倒れこんだ。
航は一瞬で深い眠りに落ちた。
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12時00分
陽は聖とテーブルを挟み、ざるうどんを食べていた。
「よう、面談今日でしょ?」
「うん、2時から」
「五十嵐さんとでしょ?私は来週だよ」
「今回、部長も同席してくれるんだよ」
「げ?私、あの人ちょっと苦手だ…」
「でも、部長がいなかったらオレたち出会ってないじゃん」
「…ま、偶然だけどね」
「聖とのこともあるからさ。部長交えて要望伝えてみようかと思ってね」
「ふーん、、、あまり無理しないでね」
聖は不安そうな顔をしたが、どこか嬉しそうだった。