22時45分
「ん?今日は何曜日だ?」
航は連続勤務で曜日の感覚がおかしくなっていた。
今日の勤務は20代前半の男性2人と一緒だった。航と20歳以上も年が離れている。
1人は高卒3年目の掛川さん、彼は正社員だった。細身で小柄な体に大きめな制服を着ていて、年齢よりずっと幼く見えた。
そしてもう1人は大学4年生の韓国人・李(イ)さん。黒いメガネがとても真面目な印象を与える。
親子ほど年の離れた彼らとの勤務。しかも、航は教わる立場だ。
「掛川さん、李さん、よろしくお願いします」
航は頭を下げながら、向こうもやりにくいだろうな…と思った。
---------------------------------------
航はこれまでにいくつか仕事を変えてきた。その都度、「新人いびり」というかそれなりに嫌な思いはしてきた。どこに行っても性格のひねくれた奴はいるものだ。
今回もそういったことが起こりうるだろうと覚悟していた。そして、そんなことがあっても、どうということはなかった。
しかし、今回、航のこの思いは杞憂だった。若い2人は丁寧に仕事を教えてくれた。本当にこの職場は気の良い人間が集まっていた。
---------------------------------------
航は団体客のリストに目を通した。北海道から中学生の修学旅行の団体が泊まりにきていたが、すでにチェックインは済んでおり、ロビーはガランとしていた。しばらくして引率の先生が会議室の鍵を返しにきた。大勢の子供達を預かる先生方の気苦労はなかなかのものだろう。
01時10分
パソコンに向かいながら、航は掛川さんに話しかけてみた。
「なんでこの仕事を選んだんですか?」
掛川さんは少し考えてから答えた。
「僕、この見た目の通り電車が大好きで。旅行が好きなんです。それでそれに近い仕事って何かなぁと…それで学校の先生と相談して決めました」
「電車好きなんですね?じゃあ例えばJRに就職するとか…それは考えなかったんですか?」
「好きなことを仕事にして、あとで嫌になったら救いようがないじゃないですか。電車嫌いになりたくないので。
それに、お金をいただく限りは「価値を提供しなきゃいけない」と思うんです。自分の能力以上の仕事に就いてお金をいただくのは違うような気がして。この仕事なら僕にも出来そうだなって思ったんです」
そこには自分を卑下しているような様子は感じられなかった。ただ客観的に自分を観察し、それに見合った人生を選択しているように思えた。21歳。これはこれで幸せな考え方だな、航はそんな風に思った。