午前01:00
石松さんが仮眠に入り、陽と航はフロントバックで2人になった。
陽は「業務リスト」と書かれた用紙を航に見せながら言った
「これとこれ、もうできますか?」
「はい、このレポートも書けますし、朝食の人数リストも作れます」
「ああ、もうそんなに覚えられたんですね、助かります。じゃあ石松さんはコレと…」
陽は業務リストの項目の横に名前を書いていった。陽と航の名前は5〜6箇所に書かれていたが、石松さんの名前は1つだけだった。
「石松さん、パソコンの作業とか出来ないんですよ。今後、石松さんと2人でシフトに入るときはちょっと負担が大きくなるかもしれませんが、その辺は許してください」
「もちろんです」
陽は答えた。
「石松さん、月に4回くらいしかシフトに入っていないし、69歳ですからね。なかなか業務を覚えられなくて当然だと思うんです。でも、英語力とか凄いですから。外国の方が来た時なんかめっちゃ頼りになりますよ」
「ああ、前回ご一緒したとき、びっくりしました」
航はフロントに来た中東系の男性に英語で対応した石松さんの姿を思い出していた。
そして、ここは人を思いやることのできる良い職場だな、と感じた。
航は陽に言われた業務を黙々とこなした。メモを見ながら間違えないように丁寧に作業した。
陽は手を動かしたまま、航に言った。
「話しかけて大丈夫ですか?」
航は手を止めて答えた。
「はい、大丈夫です」
「石松さん、昔は外務省で働いていたらしいんですよ。詳しいことは知りませんが、海外生活も長かったらしいですよ」
「ああ、それで英語が…」
航は妙に納得した。
「そのあと旅行会社を作ったり…色々されてたみたいです。詐欺にあってかなりの借金背負っちゃったみたいですけど」
航は石松さんにますます興味を持つようになった。
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「浅間さん、終わりました」
業務を終えた航は陽に言った。
陽は時計をチラリと見ると言った。
「じゃあ仮眠しちゃってください。戻りは…そうだな、4時で」
「わかりました。では先に休ませていただきます。ありがとうございました」
航はスマホのアラームを3:45に設定し、フロントバックを出た。