電車が駅に入ってきた。この時間、車内は空いていた。
陽は座席に座り、掛川君に借りた本の続きを読みだした。
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ドサッ
何かが落ちる音がした。
陽は慌てて顔を上げた。いつのまにか眠っていたらしい。外を見ると、見慣れた風景が見えた。陽は急いで床に落ちた本を拾い上げると、電車を飛び降りた。
自転車に乗り、家に向かう。
陽は例の中古本販売店の前を通りかかると、自転車を止めた。
いつもなら漫画コーナーに直進するところだが、今日はそうしなかった。
100円コーナーに向かい、目を皿のようにして書籍を眺める。そして陽は一冊の本を棚から取り出した。
『寝不足になる古事記』
陽はパラパラとページをめくった。
「これでいっか、安いし」
陽は会計をすませると自転車にまたがった。
幅広い歩道の自転車通行帯を気持ちよく走る。
「ん?」
陽は急ブレーキをかけ、自転車を止めた。自転車をUターンさせ、5メートルほど道をもどる。細い道を右に折れると赤い鳥居が立っていた。
「春日神社…」
今まで何年も通った道だったが、こんなところに神社があることは知らなかった。
陽は鳥居の脇に自転車を止めた。
鳥居の前に立つと、陽は呟いた。
「うちの近くにもこんな神社があったのか…」
陽は鳥居をくぐろうかと思ったが、早く家に帰って眠りたかった。
「今日はやめておこう。今度、聖と来ればいいし」
そのまま帰るのもなんとなく気持ち悪かったので、陽は神社に向かってペコリと頭を下げた。