手を合わせながら陽は神様に意識を向けようとした。しかし、色々な想いが湧いてきて集中できなかった。
(さっきの柏手…うまく鳴らなかったけどあれで大丈夫かなあ?
そもそもお賽銭は五円でよかったのかな?少なすぎ?
いや、でも給料少ないし、ただ払うだけでモノを買うわけでもないしなぁ…
あ、そうだ!願い事考えなきゃ…
えーと、えーと…
そ、そうだ
神様、どうか聖と結婚して幸せに暮らせますように…)
陽はもう一度深々と頭を下げ、目をあけた。
「ふぅ」
陽は一息つくと辺りを見回した。陽以外に誰もいなかった。拝殿の横に古びた建物があった。
陽が近づくとそこには「弁天堂」と書かれていた。お堂の中にさらに小さなお堂があった。大きな建物が小さな建物を風雨から守っているように見えた。小さなお堂の前面には、天女のような小さな人形が置かれていた。
「社とか宮とか堂とか…色々あってよくわからないなぁ…」
弁天堂のお賽銭箱には正三角形を3つ組み合わせた神紋が施されていた。
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「かっこいい!!トライフォースみたい!!
弁天堂Switch!!なんちゃって。
…ん?」
鈴紐には小さな鈴がいくつも取り付けられていた。どうやら恋愛成就の願掛けらしい。
「…ここもお参りしとくか」
陽は小銭入れを取り出した。五円玉がなかったので、賽銭箱に十円玉を放り込み目を閉じた。心を鎮め、手を合わせた。
しばらくして目を開けると…
「ん?なんだ?」
小さなお堂の上あたりに、小さな雲のようなものがグルグルと渦を巻いていた。
「え?」
陽は目をこすった。
白い雲は薄くなり、すぐに消えた。
陽は少し考えて呟いた。
「よし、見なかったことにしよう。
うん、気のせいだ」
陽は弁天堂に背を向けた。左手に社務所と書かれた看板を掲げている建物が見えた。