広末さんは言った。
「藩に無断で軍艦を購入したり、突如出家したり、脱藩して投獄されたりしたって話だよね。ノブナガ君の言う通り、まさにロックな人だね」
ノブナガは言った。
「さすが広末さん!!わかっていらっしゃる!!」
陽は言った。
「…それロックっていうか、ただ規律を守れない人なんじゃないですか?
今の話だと僕は好きになれないです。周りが迷惑しますよ」
聖は陽の気持ちがよくわかった。聖はいつも陽がコミュニティを円滑に回すよう心がけて動いているのを知っていた。それはもちろん仕事場でもそうだった。
「きさまっ!!」
声を荒げるノブナガを広末さんが制した。
「まぁまぁ。色々な意見があるのはいいことだよ。
あのね、ヨウくん。これは僕が昔、テレビの時代劇で見たんだけど…」
広末さんは続けた。
「長州藩が外国船に大砲をぶっ放したことがあってね。戦線布告したわけだけど、イギリス、フランス、オランダ、アメリカの連合国軍との戦力差は歴然としていて、わすが数日で返り討ちにあってしまったんだ。
その後、講和談判…つまり争いを止めるため話し合いましょう、となるわけだけど、その使者として白羽の矢が立ったのが、当時投獄されていた高杉晋作だったんだ」
「ううっ…」
陽がノブナガを見ると目を抑えていた。その姿は泣いているようにも見えた。広末さんは続けた。
「最初に「賠償金をはらえ」という連合国軍の要求を「オレたちは幕府の指示で戦ったに過ぎないから、それは幕府に言ってくれ」と突っぱねてしまった」
カナコは笑った。
「ウケるんですけど、高杉晋作!!」
広末さんは続けた。
「次に連合国軍が突きつけてきたのが、彦島の租借だ」
「ソシャク???」
「彦島は山口県下関市にあるんだけど…租借というのは、わかりやすくいうと植民地にしろってことだよ」
「植民地???日本が???」
陽は驚いた。植民地なんてどこか遠い世界の話のように思っていたからだ。
ノブナガが言った。
「19世紀末、東アジアの日本とタイ以外は全て植民地だったんだからな。日本だって例外じゃないさ」
広末さんが続けた。
「そこで高杉晋作が奇策に出た。突如、古事記を諳んじたんだ。そして、同行した伊藤博文に通訳しろと言ったとされる」
「古事記?」
「古事記って確か…龍橋神社のお巫女さんも言ってたな。アメノイワトが何とかって…」
広末さんは続けた。
「あめつちひらけしとき…ってね。
伊藤博文は「とてもじゃないが通訳できない」と言ったらしいが高杉晋作は「いいからやれ!!」と」。
カナコは興奮気味に言った。
「すごい!すごい!高杉晋作!!」