「アメノイワト???
アメノイワトってなんでしたっけ?」
聖は正直に聞いた。
「古事記…日本の神話に出てくるお話です。
弟・スサノオが大暴れをし、心を痛めた姉・アマテラスがショックで岩戸の中に引きこもってしまうんです。日本初の引きこもりですね」
「あ、天照ってここに書いてある!」
聖は巫女さんの前に並べられているお神札に「天照皇大神宮」と書かれているのを見つけ指をさした。
「その通りです。アマテラスは『あまねく照らす』ということですから、太陽の女神のことです。
これは神宮大麻(じんぐうたいま)と言って伊勢の神宮のお神札です。伊勢神宮内で奉製され、それを全国の神社でお配りしているのです
良かったらこれを、どうぞ」
巫女さんはそういうと「お神札の祀り方」という説明書きを聖に渡した。
「わぁ、ありがとうございます」
聖は早速それを読み始めた。表情は真剣そのものだった。
「ふーん。氏神神社とか崇敬神社とか…私、ぜんぜん知りませんでした。
私、神社は結構好きなんですけど、パワースポットとか…そんなところばかり行ってました。勉強になりましたし、何も知らなくて恥ずかしいです」
(さっきこのお巫女さん、タイマって言ったよな???)
陽は思い切って聞いてみた。
「あのー、さっきタイマって言いましたよね?タイマってその…まさか覚せい剤の大麻ですか?」
巫女さんは少し考えてから言った。
「うーん、それは大きな誤解ですね。
そもそも覚せい剤と大麻はぜんぜん別のものなのですが…皆さん、ごっちゃになってるのかもしれませんね。ちょっとお待ちください」
巫女さんは一度奥へ下がるとヒラヒラとした白い紙が先端にたくさんついた棒を持ってきた。
「これは大麻と書いてオオヌサと呼びます。身体についた穢れを祓う祭具なのですが…
昔、神官がお祓いをしたのち、御師(おんし)…御師というのは伊勢の信仰を広める広報係みたいなものです…が、穢れを祓い終わった相手にこの大麻を渡していたんです。
やがてこれが形を変えてお神札になりました。だから、神宮大麻と呼ばれるのです」
「じゃあ僕の思う…麻薬の大麻とは関係ないんですね?」
「いえ、その昔、大麻と日本人は切っても切れない関係にありました。大麻草がしめ縄や衣類に使われていたんです。
実際、昔の神宮大麻…つまりお神札の中には大麻の繊維が入れられていたと言われています。大麻は本来とても神聖なものなんですよ」
「は、はぁ…大麻が神聖???」
陽は巫女さんの説明を聞いていたが、頭の中はチンプンカンプンだった。