「あっ、そういえば…」
陽はソファから身を起こして言った。
「聖宛に荷物届いてたよ。そこにに置いてある」
聖の顔がパッと明るくなった。
「もう届いたの?日本最高っ!!」
それを聞いた陽は、航が「何度でも日本人に生まれ変わりたい」と言っていたことを思い出していた。
「超高速スピード!!」
聖はそう言うと、食器を洗う手を速めた。
「超高速スピードって…なんか変じゃない?」
「いいの、気持ちが大切だよ」
陽は聖の明るさに触れ、いつのまにか元気になっていた。
昼間、18歳のフットボーラーと自分の人生を比較し、若干憂鬱になっていたことはすっかり忘れていた。陽はソファから立ち上がり、身体を伸ばした。
「んじゃ、僕はお風呂に入りますかねー」
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「あれ?」
陽は湯船に浸かったまま眠りに落ちていた。
気づけば風呂に入って40分が経過していた。
「オレ、寝てばっかりだな…
それにしてもおかしいな、いつもなら長風呂してると聖が声かけてくるのに?」
陽は風呂を出ると冷蔵庫へ向かった。
プシュ
発泡酒の缶を開け、すぐに口に運ぶ、
「いやー、風呂上がりのビールは最高だね。発泡酒だけど…庶民はつらいねーって、あれ?」
聖の返しもなく、大きな独り言になっていた。
聖はソファに座り真剣に本を読んでいた。
陽は聖のとなりに座った。
「なにその本?聖、本読んでんの?
あっ、それかぁ、さっき郵便で届いたの」
「うん」
聖はそう言うと本に挟まれていた小さな広告を栞のようにして本を閉じた。もう半分近く読み進めている。
「聖、読むの早いなー」
「だって、面白いんだもん
それに、ようの方が読むの得意じゃん。付き合い出した頃はいつも本を持ってたよね」
聖の言う通り、昔…と言っても2年くらい前まではよく本を読んでいたし、今でも好きだった。しかし、聖と同棲を始めてからお金のゆとりがなく本を買うことはほとんどなくなった。優先順位が下がり、今ではもっぱら立ち読み専門になっていた。
「ん?この人…」
陽は表紙の帯に写っている金髪の男をどこかで見た記憶があった。
「ああ、この人。この前、聖が見てたブログの人じゃん?龍がどうこうっていう…」
「ピンポーン!大正解っ!!
すんごい大人気のブロガーさんなんだよ。
実はこの人のこと、あ、TAKUYAさんって言うんだけど、教えてくれたのなほほんなんだよ」
「ふーん…」
陽はどう反応して良いか分からず、口から平坦な音を出した。聖は構わず進めた。
「なほほん、TAKUYAさんの名古屋のトークライブのチケット持ってたらしいんだけど、赤ちゃんがいつ生まれるかわからなくて行けなかったんだって」
(トークライブ???芸能人かなんかなのか)
と陽は思った。そして言った。
「で、今は聖もハマってると…
「まぁ、私は人に流されないタイプだと思うけど、なほほんの言うことは100%信じてるから。それに、この人は面白いよ。私の目に狂いはない!!なんちゃって」
聖は明るくそう言った。
「もし聖に先見の明があるなら、なぜオレと付き合ってるんだ?」
と陽は言いかけて言葉を飲み込んだ。頭の中では「poison」のイントロが流れていた(なんでだよ)。
「よう、明日休みでしょ。デートしよ、デート」
「デートって…聖、どこ行きたいの?買い物?」
「私、神社に行きたい。行きたい神社があるの」