18時10分
「ただいまー」
聖が帰ってきた。
「おかえりー」
「よう、お掃除と…洗濯もの取り込んでくれた?」
「うん、やってあるよ」
「ありがとう。今からすぐご飯作るから」
聖は荷物を置き着替えると、すぐキッチンに立った。
「あれ?カレー残ってる。よう、カレー残したの?珍しいね」
冷蔵庫を開けた聖が言った。
「う、うん。ちょっと食欲なくて…」
「ふーん」
聖は陽を観察するように目を向けた。
「だ、大丈夫だよ。たまにはそういうことだってあるよ」
「ふーん、それならいいけど」
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「あっ、そうだ!!」
食事がはじまると、聖はなにかを思い出したように言った。そして、立ち上がるとバッグからスマホを取り出した。
それを見て陽は言った。
「おい、聖〜。食事中のスマホは禁止って聖が言ったんじゃなかった?
食事は命をいただく神聖なものなんだろー」
「わかってる。わかってるけど、ちょっと今回は特別なのよ」
聖は陽に目を向けず、スマホを操作した。そして陽にスマホを向けて言った。
「じゃーん!!」
そこには生まれたばかりの赤ん坊と母親が写っていた。
「え?これ…」
「うん、なほほんの赤ちゃん産まれたんだよ!二人目。男の子っ!!」
聖は満面の笑みで言った。
「奈帆ちゃん、今は名古屋だっけか?」
「うん。旦那さんの転勤でね」
なほほんこと奈帆ちゃんは、聖の高校時代からの親友だった。陽は聖からスマホを奪い取った。
「うわー、かわいいな…めっちゃ小さいし」
陽はスマホの画面を覗き込んで言った。小さい命が本当に愛おしく思えた。
「でしょでしょ、めっちゃかわいいよね。なほほんにそっくり」
陽はふと航の話を思い出した。
(氷川さんは自分の赤ちゃんを見たとき、かわいいと思わなかったって言ってたな。
人の赤ちゃんですらこんなにかわいいのに
自分の子供なんて想像を絶するかわいさだと思うんだけどな?)
陽は航の感情が不思議に思えて仕方がなかった。
食事を続けながら、陽は聖に言った。
「昨日さ、氷川さんと結構話してさ」
「え、どんなどんな?
私、いつも入れ替わりだからなー
真面目そうな人だよね。口数少なそう」
「それがそうでもなくてさー
いや、不真面目って意味じゃないよ…」
陽は航との会話の一部始終を掻い摘んで聖に伝えた。
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カチャカチャ
ザーッ
キュッキュッ
食事を終え聖は食器を洗っていた。
陽はソファに転がり、テレビを眺めていた。
「ようー、お風呂入っちゃいなよー」
「うーん、もう少し」
陽は適当な返事を返した。