陽はそう答えながら、ノブナガがまた大声を出すだろうと思った。
(「日本人なのにそんなことも答えられんとは!!」って言われるんだろうなぁ…)
しかし、陽の予想とは裏腹にノブナガは穏やかに話し続けた。
「ふむ。
おそらく…多くの日本人がもやしと同じように答えられないのではないか…とオレは思っている」
さらにノブナガは続けた。
「アイデンティティとは…
「自分は何者である!」
ということだな?」
「はい。そう思います」
「お前は何のために留学したのだ?」
「はぁ…
なんとなく…です。
海外への憧れもあったし、日本から出たら何か得られるんじゃないかって…そんな風に思っていました。
それに、英語も好きだったし」
「お前に「日本ってどんな国なんだ?」と聞いた外国人も同じ思いだったかもしれないぞ?」
「は?」
「ワクワクしながら「日本ってどんな国なんだ?」と聞いたら、相手の日本人は「わからない」と言う。
さぞかしガッカリしただろうな」
「う…」
「お前は何かを求めて留学したが、手土産も持たずに海を渡ったわけだ。
「何かください!!僕に何かください。
僕はあなたになにもしてあげられませんけど、僕に何かください」
無粋なことだな」
陽は黙り込んだ。
「留学もいいが、その前にすることがあるだろう。
オレは今の若者がどんな気持ちで海外に足を運んでいるのか…とても憂慮している。
もやしよ、別にお前を責めているわけではないぞ。
そもそも日本人はグラデーションの中で生きているから「自分は何者であるか」なんて考えるのが苦手なのかもしれない。
そして、それが日本人の良さでもあるのだからな」
「グラデーション?」
陽はノブナガの言っていることがわからなかった。
「もやし、出身はどこだ?」
「え、横浜ですけど」
「え!!横浜なの?
オシャレ〜〜」
カナコが言った。
「街の灯りが
とても綺麗ね
ヨコハマ〜〜
ブルーライトヨコハマ〜〜🎶」
「かなぶん、歌上手ね〜〜」
聖がカナコに言った。
「そりゃそうよ〜〜
私、SFBのヴォーカルだもん!!
ベースも弾くのよ」
カナコが得意げに言うと、聖が聞いた。
「でも…
その歌、なに?
それ、横浜駅の発着メロディーよね?京急線の?
あのメロディーって元歌があったの?
ひーちゃん、今びっくりしてます」
「え〜〜〜〜っ!!
知らないの〜〜〜〜っ!!!?」
ひーちゃん、出身は?」
「ヨ・コ・ハ・マ」
「え〜〜っ!!」
カナコが二度びっくりした。